【まとめ】SaaS企業が使う重要なKPIとは?

- SaaSというビジネスモデルとは?
- SaaS独特のKPIが必要な理由
- 重要なKPI
- 成長性のKPI
- MRR(Monthly Recurring Revenue)
- ARR(Annual Recurring Revenue)
- CMRR(Committed MRR)
- Quick Ratio(当座比率)
- ARPA(Average Revenue Per Account)
- ASP(Average Sales Price)
- 効率性のKPI
- CVR(Conversion Rate)
- LTV(Life Time Value)
- CAC(Customer Acquisition Cost)
- Unit Economics(ユニットエコノミクス)
- CAC Payback Periods(CACペイバック・ピリオド)
- Burn Rate(バーン・レート)
- Runway(ランウェイ)
- 継続性のKPI
- KPIツリーの一例
- KPIのベンチマーク
「SaaSビジネスのKPIにはどのようなものがあるの?」
「KPIをどのように設定・活用したらいいのかわからない」
このようにお悩みではないでしょうか?
SaaSは従来の買い切り型ビジネスとは異なり、顧客に継続利用してもらわなければ収益を得られません。そのためKPIを設定して目標を定め、着実にクリアしていく必要があります。しかし実際どのような指標があり、どう活用すれば良いのかわからない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、SaaS企業が知っておくべき重要なKPIを21個紹介します。それぞれの算出方法や活用方法、またKPIの関係性を可視化し具体的なアクションを考えるのに役立つKPIツリーについても解説しますので、ぜひご参考にしてください。
|SaaSというビジネスモデルとは?
SaaSとは、サービスの提供者のサーバー上で稼働するソフトウェアを、必要な機能や容量のみを選び、必要な期間だけ利用するビジネスモデルです。
SaaSはSoftware as a Serviceが略された言葉で「サース」と発音され、「サービスとしてのソフトウェア」を意味します。従来のクライアント側がソフトウェアをインストールして使用するのとは異なるサービスの提供方法として近年注目され、採用する企業が増えています。
■SaaSの競争上の優位性
SaaSは従来のインストール型でサービスを導入するより、競争上優位性が高いとされています。その理由は以下の4つです。
①ネット環境あればどこでもアクセスできる
②複数人のチームで管理できる
③スピーディーに導入できる
④導入コストが低い
順番に解説します。
①ネット環境あればどこでもアクセスできる
SaaSでは、提供元のサーバー上で稼働するソフトウェアを、インターネットを経由してクライアント側で利用します。そのためネット環境があり、提供元のサーバーにアクセスできさえすれば、どこでも利用できるのが利点です。
同じアカウントにログインするだけでどこにいても同じ環境を再現できるので、リモートワークのような新しい働き方にも適しています。
②複数人のチームで管理できる
SaaSでは、データは個々のパソコンではなくクラウド上に保存されます。そのため複数人がチームとして管理し、同時にデータにアクセスして共同で編集できるのがメリットです。
インストール型のソフトウェアであれば、インストールされたパソコン上でしか作業ができませんが、SaaSであれば複数人が同時に作業できるので業務効率が向上します。リモートワークでチームメンバーが別々の場所にいても、同じオフィスで働いているのと同様に業務を進められます。
③スピーディーに導入できる
ソフトウェアを自社向きに開発して運用する場合には、要件定義から設計、運用テストなど多くの工数を踏む必要があり、導入まで数カ月、長ければ年単位の時間がかかるのが一般的です。
しかしSaaSはすでに提供されているサービスのなかから、自社に必要な機能を選ぶだけなので、基本的には申し込んだらすぐに使い始められます。変化が激しい時代においては、必要なときに必要なものをスピーディーに導入できることは、競争上の優位性を保つのに役立ちます。
④導入コストが低い
SaaSではソフトウェアの開発にかける費用が不要なうえ、さらにほとんどのサービスがサブスクリプションを採用しているため、コストを抑えて導入できるのもメリットです。
必要な機能があればオプションとして追加し、不要になったら簡単に外せます。利用する社員の人数にあわせてアカウント数も増減できるので、コストにムダが発生しない運用を実現できます。
|SaaS独特のKPIが必要な理由
SaaSは従来の買い切り型のソフトウェアとは異なる、独特のKPIが必要とされています。それは、SaaSがストック型ビジネスであるため将来予測を立てやすいからです。
買い切り型のビジネスモデルでは、顧客がソフトウェアを購入した時点で売上が最大化し、関係性も切れるため、過去の売上については語れても、将来の売上予測はできません。しかしSaaSは顧客の継続利用を前提としたビジネスモデルであるため、顧客の継続率や解約率などからある程度売上の予測が可能です。
そのためSaaSにおいては、将来予測の精度を高めるために、さまざまなKPIを設定して指標とする必要があるのです。
ベンチャーキャピタルなどの投資家も、重要なチェック項目としてKPIを注視しています。KPIを見れば、その企業の今後の成長見込みや収益見込みをある程度予測できるので、投資すべきか否かを判断しやすくなるためです。
次章から、SaaSにおいて重要なKPIを紹介していきます。
|重要なKPI
ここからは、SaaSにおいて重要なKPIを、以下の3つの項目に分けて紹介します。
・成長性のKPI
・効率性のKPI
・継続性のKPI
順番に見ていきましょう。
■成長性のKPI
成長性のKPIは、SaaSビジネスがどれほど成長しているのか、今後どの程度成長するのかを見極めるためのKPIです。成長性の主なKPIを6つ紹介します。
MRR(Monthly Recurring Revenue)
MRRは「月間経常収益」を意味し、SaaSビジネスで毎月発生する収益を指します。MRRは、以下のように計算します。
MRR=月額利用料×顧客数
MRRを測定すると、その時点でのビジネス規模がわかります。さらにビジネスの成長性まで把握したい場合は、以下の計算式で一定期間内のMRRの成長率を測定できます。
MRR成長率=期末MRR÷期首MRR−1
ARR(Annual Recurring Revenue)
ARRは「年間経常収益」を意味し、SaaSビジネスで得られる年間収益を指します。ARRの計算式は、以下のとおりです。
ARR=MRR×12
ARRにおいても、成長性を把握するためには成長率を算出する必要があります。
ARR成長率=期末ARR÷期首ARR−1
SaaSビジネスにおいては、ARR成長率はT2D3*が理想とされています。
*T2D3:Triple・Triple・Double・Double・Double/トリプル2回、ダブル3回)の頭文字をとった略語。スタートアップから、前年を基準に毎年3倍、3倍、2倍、2倍、2倍と売上を上昇させ、5年で72倍に達すること
CMRR(Committed MRR)
CMRRは「確約されたMRR」を意味し、1年契約など長期契約により確約されているMRRを指します。CMRRにおいても、成長率を算出することが売上予測には欠かせません。CMRR成長率=期末CMRR÷期首CMRR−1
CMRRでも、T2D3を目指します。
Quick Ratio(当座比率)
Quick Ratioとは、一定期間内に減少したMRRと増加したMRRの比率を指し、継続的に収益を得られるかを見極める指標とされます。Quick Ratioは、以下の計算式で求めます。
Quick Ratio=(New MRR+Expansion MRR)÷(Churn MRR+Downgrade MRR)
・New MRR:新規顧客の増加により獲得したMRR
・Expansion MRR:既存顧客のアップセル・クロスセルにより得られたMRR
・Churn MRR:既存顧客の解約により失われたMRR
・Downgrade MRR:既存顧客のダウングレードにより失われたMRR
Quick Ratioは、4%以上を目標値とするのが一般的です。
ARPA(Average Revenue Per Account)
ARPAは、1アカウントから得られる収益の平均を指します。1アカウントから得られる収益の質を知るために用いられる指標です。
ARPA=MRR÷総アカウント数
企業によっては、1ユーザーあたりの平均収益を意味するARPU(Average Revenue Per User)をARPAと同じものとして使うこともあるようです。
ASP(Average Sales Price)
ASPとは、新規顧客1人あたりの平均収益のことです。ASPは、以下のように算出します。
ASP=一定期間内のNew MRR÷その期間内に獲得した新規顧客数
ASPは、1人の新規顧客から得られる収益の質を把握するための指標で、LTV(顧客生涯価値)の増減を見極めるのにも用いられます。
■効率性のKPI
効率性のKPIは、かけたコストに対してどの程度の収益を得られたのか、SaaSの効率性を見極めるための指標です。効率性のKPIを7つ紹介します。
CVR(Conversion Rate)
CVRは「顧客転換率」を意味し、見込み客から有料新規顧客になった(コンバージョンした)割合を示します。顧客獲得の効率性を見極めるための指標です。
CVRは、以下のように算出します。
CVR=CV数÷サイトの訪問者数(広告のクリック数)など
LTV(Life Time Value)
LTVは「顧客生涯価値」を意味し、1人の顧客が生涯をとおして自社にもたらす収益の平均値を指します。LTVにはさまざまな計算方法がありますが、代表的なのは以下の計算式です。
LTV=ARPA×平均継続期間
LTVは、1人の顧客にいくらのコストをかけられるかを見極める際に役立ちます。
CAC(Customer Acquisition Cost)
CACは「顧客獲得単価」を意味し、1人の顧客を獲得するのにかかったコストの平均値を指します。CACは、以下の計算式で求めます。
CAC=顧客獲得にかけたトータルコスト÷新規顧客数
CACは、CPA(Cost Per Acquisition)またはCCA(Cost of Customer Acquisition)とも呼ばれます。
Unit Economics
Unit Economics(ユニットエコノミクス)は、LTVとCACの比率のことで、顧客1人あたりの採算性を示す指標です。Unit Economicsは以下の計算式で算出した結果が3以上だと健全とされています。
Unit Economics=LTV÷CAC
Unit Economicsを測定すると、顧客獲得のためにかけるコストが適切かを見極められるようになります。
CAC Payback Periods
CAC Payback Periods(CACペイバック・ピリオド)は、顧客獲得にかけたコストを回収できる期間を示す指標で、以下の計算式で算出します。
CAC Payback Periods=CAC÷(ARPA×粗利率)
CAC Payback Periodsは、12か月以内を目指します。
Burn Rate
Burn Rate(バーン・レート)は「資金燃焼率」を意味し、1か月にかかっているコストを指す指標です。Burn Rateには以下の2種類があります。
Gross Burn Rate:1か月にかかっている総コスト
Net Burn Rate:総コストから収入を差し引いたコスト
基本的には、Net Burn Rateを重視します。
Runway
Runway(ランウェイ)とは「猶予期間」を意味し、資金が底をつく期間を示す指標で、以下のように計算します。
Runway=手元にある資金÷Burn Rate
Runwayは、資金繰りを把握するために活用します。
■継続性のKPI
継続性のKPIは、SaaSビジネスを長く継続できるかを見極めるための指標です。継続性のKPIを、8つ紹介します。
Churn Rate
Churn Rate(チャーン・レート)は解約率を意味し、以下の2種類があります。
・Customer Churn Rate
Customer Churn Rateは、一定期間内の顧客の減少率を測る指標で、以下のように計算します。
Customer Churn Rate=一定期間内の解約数÷前期末時点の総顧客数
・Revenue Churn Rate
Revenue Churn Rateは、収益の減少率を測る指標で、Expansion MRRによる増収を考慮するかによってさらに以下の2種類に分けられます。
Gross Revenue Churn Rate=(Contraction MRR+Churn MRR)÷前期末時点のMRR
Net Revenue Churn Rate=(Contraction MRR+Churn MRR−Expansion MRR)÷前期末時点のMRR
Net Revenue Churn Rateがマイナスになると、新規顧客を獲得しなくてもビジネスを維持できる「Negative Churn」の状態にあるといいます。SaaSビジネスとしては理想的な状態です。
CRR(Customer Retention Rate)
CRRは「顧客維持率」を意味し、一定期間内にどの程度顧客を維持できているかを測る指標で、以下のように計算します。
CRR=前期からの継続顧客数÷前月末時点の総顧客数
NRR(Net Revenue Retention)
NRRは「売上継続率」を指し、一定期間内における既存顧客からの収益の増減を示す指標です。NRRは以下の計算式で算出します。
NRR=(期首の合計MRR+Expansion MRR−Churn MRR−Contraction MRR)÷期首の合計MRR
NRRは、一定期間内の売上が、翌期や翌年にはどの程度になるのかを予測するのに役立ちます。NRRが100%を超えた状態を維持できていれば、継続的な売上が見込めると判断できます。
平均継続期間
平均継続期間は、顧客が契約を継続している期間の平均値を指し、以下の計算式で求めます。
平均継続時間=1÷Net Revenue Churn Rate
AU(Active User)
AUは、サービスを実際に利用しているアクティブユーザー数を指します。
DAU(Daily Active User)=1日あたりのアクティブユーザー
MAU(Monthly Active User)=1か月あたりのアクティブユーザー
顧客の利用頻度は、以下の計算式で求めます。
顧客の利用頻度=DAU÷MAU
NPS ®(Net Promoter Score)
NPSとは、顧客がサービスに対してどの程度愛着を持っているかを表す「顧客ロイヤルティ」を測る指標です。 NPS ®では顧客に対して「友人や同僚にすすめる可能性はどのくらいありますか?」と質問し、1〜10の11段階で評価してもらいます。出された回答は以下の3つに分類し、それぞれの割合を算出します。
9・10 |
推奨者 |
7・8 |
中立者 |
0〜6 |
批判者 |
NPS ®は、以下の計算式で求めます。
NPS ®=推奨者の割合−批判者の割合
NPS ®は将来の行動について尋ねることから、業績との相関性が高いのが特徴です。
※ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、NPS®、そしてNPS®関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標またはサービスマークです。
NRS(Net Repeater Score)
NRSは「顧客継続度」を意味し、顧客がサービスをどれくらい継続して利用したいと考えているかを示す指標です。
NRSでは、顧客に「1年後もサービスを利用したいと思いますか」と質問し、1〜5で評価してもらいます。そして出された回答を以下の3つに分類し、それぞれの割合を算出します。
5 |
リピーター |
4 |
中立者 |
1〜3 |
離反リスク者 |
NRSは、以下の計算式で求めます。
NRS=リピーターの割合−離反リスク者の割合
NRSは、プラスになるのが望ましいとされています。
RFV
RFVとは、顧客のエンゲージメントを測る以下の指標の頭文字からつけられた総称です。
指標 |
スコアの算出方法 |
Recency(直近の利用状況) |
現時点の日付−最終利用日 |
Frequency(利用頻度) |
利用日数÷サービスの利用期間 |
Volume(利用量) |
利用時間÷サービスの利用期間 |
RFVは、複数を組み合わせて評価・分析されることもあります。
サービスを契約していても、RFVスコアが低ければ、顧客は価値を感じているとはいえいないため、スコアに応じたアプローチ方法を検討するために活用します。
|KPIツリーの一例
KPIツリーとは、最終目標であるKGIを頂点として、それを達成するための中間目標となるKPIを枝葉のように広げていったものです。
例として、MRRを頂点としたKPIツリーを見てみましょう。
「MRR=月間利用料×顧客数」であるため、MRRの増加を目指すためには月額利用料か顧客数を増やさなければなりません。月額利用料は頻繁には上げられないため、顧客数増を目指します。
顧客は新規顧客と継続顧客にわかれますが、このうち新規顧客は新規リードが優良顧客に転換することで増加します。そして新規リードの獲得には、Web広告や代理店、紹介など、さまざまな手段が考えられます。
このようにそれぞれの項目を、転換率や成約率といった指標でつなげながら分解していき、「これ以上分解できない」ところまで分解します。上記の例でいうと、Web広告を分解するとクリック数とCVRに行きつきます。
ここまで分解できたらそれぞれに目標値を定め、達成するために何をすればいいのかを考えて実行していきます。末端のKPIから順番に達成していくことが、最終的にはKGIの達成につながるのです。
このようにKPIツリーは、KGI達成までの道のりを可視化し、具体的にどのようなアクションをおこせば良いのかを考えるのに役立てます。
|KPIのベンチマーク
近年は、決算説明資料でKPIを開示するSaaS企業が増えてきました。SaaSビジネスをおこなっている代表的な企業の数値を見てみましょう。
企業名 |
ARR |
MRR |
ARPU |
ARPA |
Churn Rate |
マネーフォワード |
129億円 |
49,561円 |
1.5% |
||
Sansan |
170.95億円 |
3,400万円 |
|||
フリー |
145億円 |
37.8千円 |
|||
Chatwork |
35.4億円 |
506.6円 |
0.4% |
||
チームスピリット |
27.23億円 |
0.64% |
※2022年5月時点で最新の決算資料を参照
KPIのベンチマークを調べるのであれば、上場企業である競合他社の決算資料を参考にすると良いでしょう。