MRR(Monthly Recurring Revenue)とは?計算方法と向上のコツ
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「業績を評価するのにMRRがいいと聞いたけれどもどんな指標なのか知りたい」
「MRRを向上させるには何をすればいいのかわからない」
このようなことで困ってはいませんか?
MRRは、とくにSaaSやサブスクリプション型ビジネスにおいて、業績を評価する重要な指標のひとつです。MRRを向上させればビジネスの成長につながるとされているものの、算出方法や改善方法がよくわからない人も多いようです。
そこで今回は、そもそもMRRとはどのような指標なのかを計算方法も含めて解説し、活用されているシーンや向上させる対策までわかりやすく紹介します。混乱しがちなARRとNRRとの違いも解説しますので、ぜひご参考にしてください。
|MRR(Monthly Recurring Revenue)とは?
まずはMRRとはどのような指標なのか、概要を解説します。
■定義
MRRとは、日本語では「月間経常収益」と訳される言葉で、「毎月継続して発生する収益」を指します。たとえば定額制を採用しているビジネスでは、月額利用料はMRRに含まれますが、初回のみ発生する初期費用や買い切りのオプション料金などは含まないのが特徴です。
■MRRが活用されるビジネスモデル
MRRは、とくにSaaSを筆頭とするサブスクリプション型ビジネスモデルで重要視されています。
従来の買い切り型ビジネスとは違い、サブスクリプション型ビジネスでは、新規顧客を獲得するより既存顧客を継続させることが大切です。サブスクリプション型ビジネスでは、顧客を新規獲得しただけでは利益が発生せず、継続により収益を積み重ねていくことによってのみ成長するためです。
その「成長率」を測る指標がMRRです。MRRを月次で比較すると、中長期的な成長率を予測できます。MRRは、SaaSなどサブスクリプション型ビジネスモデルを採用している企業において、成長率を知る重要な評価指標として注目されているのです。
|MRRの計算方法
サブスクリプション型ビジネスモデルを採用する企業において重要なMRRの基本的な計算方法は以下の通りです。
・月額利用料×ユーザー数
複数プランを提供している場合は、それぞれのプランごとにMRRを算出します。
<例>
月額利用料が10,000円、ユーザー数100人の場合
MRR=10,000円×100人=1,000,000円
契約期間が3ヵ月・半年・1年など複数ある場合は、いずれも月額に換算したうえでMRRを算出します。
<例>
年間利用料が60,000円、ユーザー数300人の場合
MRR=(60,000円÷12ヵ月)×300人=1,500,000円
■ARRとの違い
MRRと似た言葉にARRがあります。ARRはAnnual Recurring Revenueを略した言葉で、年間経常利益と訳されます。ARRはMRRを12倍して算出します。
BtoBにおいてはSaaSでは年間契約が少なくないため、MRRではなくARRで成長率を測る場合があります。MRRとARRのどちらを成長率の指標とするかは、商品やサービスの契約プランの期間や商品ライフサイクルによって異なります。
■MRRの4種類
MRRには、以下の4種類があります。
・New MRR
・Expansion MRR
・Downgrade MRR
・Churn MRR
当月のMRRは、前月のMRRに以下の4種類のMRRを足すことで算出します。
・当月MRR=前月のMRR+(New MRR + Downgrade MRR + Expansion MRR + Churn MRR)
それぞれどのようなものか説明します。
① New MRR(新規MRR)
新規顧客から得られるMRR。サービスを開始してから間もない時期に、とくに注視される指標です。
<例>
100人の新規顧客が50,000円/月のプランに加入した場合
New MRR=50,000円×100人=5,000,000円
② Expansion MRR(アップグレードMRR)
前月よりも取引額が増加した既存顧客から得られるMRR。アップグレードやアップセル・クロスセルによってもたらされます。Expansion MRRが大きいほど、顧客ロイヤルティが高く、ビジネスは健全に成長していると考えられます。
<例>10人の既存顧客が10,000円/月のプランから30,000円/月のプランにアップグレードした場合
Expansion MRR=20,000円×10人=200,000円
③ Downgrade MRR(ダウングレードMRR)
前月よりも取引額が減少した既存顧客から損失したMRR。Downgrade MRRが小さいほど、ビジネスは健全に成長していると判断できます。
<例>
10人の既存顧客が50,000円/月のプランから20,000円/月のプランにダウングレードした場合
Downgrade MRR=30,000円×10人=300,000円
④ Churn MRR(解約MRR)
当月にサービスを解約した既存顧客から損失したMRR。Churn MRRは、少ないほどビジネスは健全と判断できます。
<例>
5人の顧客が50,000円/月のプランを解約した場合
Churn MRR=50,000円×5人=250,000円
|MRRの活用シーン
算出されたMRRは、どのように活用されるのでしょうか?
■投資家の指標
MRRは、投資家が投資判断する際に、ビジネスの成長率を測るための重要な評価指標とされています。
SaaSなどサブスクリプション型ビジネスでは、投資家は「成長性」「効率性」「継続性」の3つの視点から事業が投資するに値するか判断するといわれています。そのなかで、「成長性」を示す指標としてもっとも重要視されるのがMRRです。
投資家が注視するMRRは、事業がどのフェーズにいるのかによっても異なります。たとえばスタートアップしたばかりの企業では、顧客数が増えているかの指標となるNew MRRが注視されます。一方事業が安定してくると、顧客ロイヤルティの高さを示すChurn MRRやDowngrade MRR、アップセル・クロスセルの成否を示すExpansion MRRが注視されるのです。
■SaaS Quick Ratio
MRRは、SaaS Quick Ratioを算出するのにも用いられます。 SaaS Quick Ratioとは、SaaSビジネスの成長率を測るための指標です。
SaaS Quick Ratioは、以下の計算式で求めます。
・SaaS Quick Ratio(%)=(New MRR+Expansion MRR)÷(Downgrade MRR+Churn MRR)
MRRの増加分を減少分で除することにより、増加と損失のバランスを把握できるようになります。
SaaS Quick Ratioを算出した結果は、以下のように読み取ります。
1未満 | ビジネスは縮小中で、将来性は極めて低い |
1以上〜4未満 | プラス成長をしているものの、顧客開拓に行き詰まると成長がストップすると考えられ、時間の経過とともに縮小に向かう可能性が高い |
4以上 | ビジネスは好調に成長している |
事業のスタート段階では解約が発生しにくいことから、SaaS Quick Ratioは高止まりすることがほとんどです。そのため投資家もSaaS Quick Ratioをそれほど重要視しません。逆にいえば、スタート段階であるにもかかわらず、SaaS Quick Ratioが低い場合、今後の見通しはかなり厳しいと考えられます。
SaaS Quick Ratioが注視されるのは、ビジネスの立ち上げから1年半ほど過ぎたころからです。この時期になると、徐々にChurnが発生し、SaaS Quick Ratioは下がり始めます。この段階で4以上の高い数値を維持していれば、ビジネスは顧客ロイヤルティを獲得し、健全に成長していると判断できます。
|向上させるための戦略4選
それでは、4種類のMRRを改善するための戦略を順番に紹介します。
■New MRRを改善
New MRRが低いのは、新規顧客を順調に獲得できていないことが原因です。新規顧客獲得を強化するために、マーケティングでのリード獲得率(コンバージョン率)や、セールスでのクロージング率の改善が必要です。
■Expansion MRRを改善
Expansion MRRが低い場合、顧客に対するアップセル・クロスセルの働きかけが不十分である可能性があります。ロイヤルティの高い顧客・契約単価の高い顧客から優先的にアップセル・クロスセル対策を実施しましょう。
■Downgrade MRRを改善
Downgrade MRRが高い場合、顧客がプロダクトを十分に使いこなせていなかったり、サービスに満足していなかったりすることが考えられます。オンボーディングを見直して改善し、不満を持つ顧客に対するサポートを徹底する必要があります。
■Churn MRRを改善
Churn MRRが高いケースでは、自社プロダクトに顧客が価値を感じていないという深刻な問題が発生していると考えられます。顧客に自社製品やサービスで課題解決につながる成功体験をしてもらい、顧客ロイヤルティを育てて解約を防止する必要があります。カスタマーサクセス部門を設立し、導入から成功まで伴走支援するような、抜本的な対策を検討しましょう。
|最後に:海外で注目される指標NRRとの違いは?
近年サブスクリプション型ビジネスモデルを採用している海外企業では、MRRよりNRRに注目するところが増えています。
NRRは、Net Revenue Retentionを略した言葉で、日本語では「売上維持率」と訳されます。NRRは以下のように計算します。
・NRR=(月初の合計MRR + Expansion MRR - Churn MRR - Downgrade MRR)÷月初の合計MRR
MRRが対象月の経常「収益」であるのに対し、NRRは対象月の「収益の維持率」を指します。NRRではNew MRRを含まないことがポイントです。つまりNRRは、新規顧客を考慮せず、既存顧客だけでどれだけ事業が成長するかを測るのです。
NRRが100%を上回ると、既存顧客のロイヤルティを獲得し、アップセルやクロスセルに成功していることを意味します。SaaSなどサブスクリプション型ビジネスモデルでは、既存顧客からの収益が増大するほど成長します。そのためNRRは、企業の成長率に直結する指標として重要視されているのです。