【解説】CSのタッチモデル:ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ・コミュニティタッチとは?

「カスタマーサクセスのタッチモデルの種類を詳しく知りたい」
「タッチモデルで対応するメリットを理解したうえで取り入れたい」
このようにお考えではないでしょうか?
カスタマーサクセスでは、顧客をセグメント分けして対応する「タッチモデル」と呼ばれる手法を取るのが一般的です。しかし具体的にどのように分けるのか、タッチモデルで分けることにどんなメリットがあるのか分からないまま導入しても、うまく運用できないかもしれません。
そこで今回は、カスタマーサクセスにおけるタッチモデルについて、導入するメリットとそれぞれの特徴を、導入企業の事例とあわせてご紹介します。
|カスタマーサクセスとタッチモデル
顧客の自社プロダクト活用による成功を伴走支援するカスタマーサクセスは、顧客のLTVを最大化させることが重要な目的のひとつとされています。その目的を達成するために、顧客を取引金額やサービス単価に応じて分類し、それぞれに最適なアプローチをおこなう手法を「タッチモデル」といいます。
まずは、カスタマーサクセスにおけるLTVとタッチモデルの関係、そして顧客層をセグメント分けするメリットを解説します。
■LTVとタッチモデルの関係
カスタマーサクセスにおける重要な目標はLTVの最大化です。LTVとはLife Time Valueを略した言葉で、日本語では「顧客生涯価値」と訳されます。具体的には、1人の顧客が契約してから解約するまでの間に企業にもたらすトータルの利益を指します。
LTVの計算方法は複数ありますが、SaaSにおいてのLTVは、以下の計算式を用いて算出するのが一般的です。
LTV=ARPA(Average Revenue per Account=1顧客あたりの平均月単価)÷チャーンレート(解約率)
たとえば月の取引額が100万円の企業と10万円の企業が解約した場合、同じ1社と考えるとチャーンレートは変わりません。しかしARPAに関しては、100万円の企業の解約がLTVに与えるインパクトは10万円の企業よりはるかに大きいことは容易に想像できるでしょう。
つまりLTVの最大化を目指すのであれば、今後期待できるLTVが大きいと予想される、月の取引額100万円の企業を優先的にケアして維持する必要があることは明らかです。
このように、取引額の規模やサービス単価が高い顧客はLTVに大きな影響を与えるため、単価や取引額に応じて顧客を分類し、上位顧客から優先的にケアする「タッチモデル」の手法を取ることが重要なのです。
とくにサービスの導入を伴走支援するオンボーディングに際しては、タッチモデルにより対応を分け、上位顧客を取りこぼさないことが大切です。
■顧客層を分けるメリットは?
顧客層を分けるもっとも大きなメリットは、限られたリソースを効率的に活用できることです。 多くの企業では、単価の高いサービスを利用している/取引規模が大きい、今後大きなLTVが期待できる少数の顧客をトップに、低単価のサービスを利用している/取引規模が小さな多数の顧客を底辺に、顧客層はピラミッド型になっているのが一般的です。そして先述したとおり、上位顧客はLTVに大きな影響を与えるため、手厚い対応を取る必要があります。
もちろんすべての顧客に対して同じ対応が取れるなら、それに越したことはありません。しかし、すべての顧客に上位顧客と同様の手厚い対応をしていると、コストや人的リソースがいくらあっても足りなくなります。かといって平等性を重視してすべての対応を下位顧客にあわせると、LTVに大きな影響を与える上位顧客への対応が手薄になってしまいます。
顧客を期待できるLTVの規模により分類して優先順位をつけることで、リソースが限られていても効率的で費用対効果の高い対応が取れるのです。
|タッチモデルの4つの層
ここからは、具体的にタッチモデルがどのように分類されているのかを解説します。
タッチモデルは、以下の4つに分けられます。
・ハイタッチ
・ロータッチ
・テックタッチ
・コミュニティタッチ
それぞれどのような層なのか確認しましょう。
■ハイタッチ
ハイタッチは、単価が高額なサービスを利用している顧客、または取引規模の大きな顧客など、LTVに大きく貢献している、または貢献すると期待される層に対する対応を指します。基本的には個社ごとにカスタマイズした、コンサルタント的な手厚いサポートを実施して、顧客ロイヤルティの向上とリテンションによるLTVの最大化を目指します。
<ハイタッチのアプローチ方法>
・訪問による導入支援
・顧客状況の常時把握およびサポート
・個社ごとの高頻度の定例会議や社内勉強会の開催
■ロータッチ
ロータッチは、ハイタッチほどではないものの、収益に与える影響が大きい層に対しておこなう対応を指します。ハイタッチ顧客への対応ほどリソースを割けないものの、顧客とは直接的な接点を持ち、なおかつ効率的なサポートが必要です。基本的には顧客ごとのカスタマイズはせず、ある程度集団的にサポートします。
<ロータッチのアプローチ方法>
・パッケージ化された導入プログラムによる支援
・ユーザーを集めてのワークショップ
・定期的な顧客状況の把握およびサポート
■テックタッチ
テックタッチは、低単価のサービスを利用している顧客や取引規模の小さな顧客など、収益への貢献度が低いものの数が多い顧客に対して実施する対応です。テックタッチ層の顧客へは、基本的には顧客自身に解決を促すセルフサービス型のサポートや、メール配信などによる自動的なサポートなど、テクノロジーを活用した効率性を重視した対応を取ります。
<テックタッチのアプローチ方法>
・操作ガイドや動画を用意して使い方を伝える
・サービスそのものにチュートリアルを用意して顧客自身による自己解決を促す
・サービスのアップデート情報などをメールで伝える
■コミュニティタッチ
コミュニティタッチは、ここまでにご紹介した想定LTV額を軸とした分類とは異なり、ユーザー会やコミュニティサイトといった「コミュニティ」を起点とした対応を指します。
コミュニティタッチでは、初期には企業が土台を作り働きかけをおこないますが、軌道に乗ると基本的にはユーザー同士がコミュニケーションを取りながら疑問や課題を解決するようになります。
導入時には手間ヒマやコストがかかりますが、自走し始めると企業側で手を掛ける必要はさほどないため、結果的に費用対効果が高くなるのがコミュニティタッチの特徴です。顧客から企業側にアプローチし、プロダクトの改善につながることもあります。
|企業の導入事例
ここからは、企業のタッチモデルによるカスタマーサクセスの導入事例を紹介します。
■SanSan
SanSanは、法人向けクラウド名刺管理サービスを提供している企業です。
SanSanでは、Lite、Standard、DXの3つのプランが用意されています。カスタマーサクセスについては、契約企業が利用するプランや希望に応じて、支援期間や支援内容が異なる以下の5種類の基本プランを提供しています。
Basic:2カ月のオンボーディング支援(電話・メール・セミナー)
Basic+:3カ月のオンボーディング個別支援(訪問・オンライン)
Advanced:5カ月のオンボーディング個別支援(訪問・オンライン・ユーザー向けトレーニング)
Premier・Premier+:通年のオンボーディング個別支援(訪問・オンライン・ユーザー向けトレーニング)+個別にカスタマイズされたコンサルティング型支援など
下位プランはテックタッチを主とし、上位プランになるに従いコンサル型支援を含むハイタッチで対応していることがわかります。SanSanは、カスタマーサクセスのサービス内容を顧客向けに可視化し、運用支援として基本プランに組み込み費用を加算していることも特徴です。
■SmartHR
SmartHRは、クラウド人事労務ソフトを提供している企業です。継続率99.5%というハイスコアをたたき出している秘密は、カスタマーサクセスの徹底的な「仕組み化」「効率化」にあります。
SmartHRでは、顧客を企業規模とフェーズで分類し、対応するチームを立ち上げることでカスタマーサクセスの効率化を図っているのが特徴です。
・オンボーディングチーム:サービス初期の立ち上げをサポート
・エンタープライズCSMチーム:企業規模が数千名の顧客のオンボーディング後を担当
・SMBCSMチーム:従業員規模が数十〜数百名の顧客のオンボーディング後を担当
・テックタッチチーム:顧客自身がサービスの活用度合いを深められるコンテンツの企画・設計を担当
・オペレーションチーム:ユーザーの活用データに応じた適切なサポートの企画・設計を担当
SmartHRのカスタマーサクセス各チームでは、業務を効率化するためにカスタマーサクセスツールなどのテクノロジーを積極的に取り入れています。ツールを活用することで、導入企業が増えても人員を増やすことなく生産性を向上し、「顧客の課題解決のためにできること」にリソースを集中できるようにもなったそうです。
■Zoom
Zoomはビデオ会議システムを提供している企業です。新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大を背景に、業績を伸ばし続けています。
Zoomでは、カスタマーサクセスチームが以下のようなテックタッチによるサポートを実施しています。
・導入時にはセットアップの案内メールを送信
・レベル(初級〜上級)にあわせたトレーニングウェビナーをLIVEにて定期的に無料で開催
・過去のトレーニング動画や機能説明の動画コンテンツをオンデマンド配信
・ライセンス更新時にはメールで通知
また2021年8月には、Zoomコミュニティも開設しました。役立つ投稿をするとポイントを獲得でき、評価レベルランクが上がるとバッジが送られるリワードシステムを導入するなど、顧客ロイヤルティの育成につながる取り組みなどをおこなっています。
Zoomでは、テックタッチとコミュニティタッチを中心とした、コストを抑えた効率的なカスタマーサクセス支援をおこなっているとわかります。