【参加レポート】Pulse 2021年:世界最大Customer Successイベントの概要

- Gainsight Pulseとは?
- イベントレポート
- Pulse Everywhere Opening KeynoteーPulse基調講演
- Fast and Furious SaaS Drift: Is Sales or CS in the Driver’s Seat? (Gainsight on Gainsight)ーワイルドスピードSaaS型ドリフト:営業とCSのどちらが運転席に?
- The Power of CS from an Investor POVー投資家POVからCSのパワー
- From On-Prem to the Cloud. How Customer Success has Been Adapted and Adoptedーオンプレミスからクラウドへ。カスタマーサクセスはどのように採用され、適応してきたのか
- Hypergrowth Through Customer Success−カスタマーサクセスを通して急成長を遂げる
- You’re on Mute: Making CS Work In a Remote-first Modelーあなたはミュートにしている:リモート優先の環境でのCS運用
- まとめ
カスタマーサクセス界をリードする、Gainsight社が主催するCS界最大のイベントPulseが2021年も開催されました。今回は新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で、オンラインでの開催となりましたが、かえってより多くの人が参加できる機会となったのではないでしょうか。
この記事では、Pulse 2021で行われたセッションのなかから、とくに重要なインサイトがあったものをピックアップしてレポートします。当日参加できなかった方、カスタマーサクセスの最新情報を日本語で入手したい方はぜひチェックしてみてください。
|Gainsight Pulseとは?
Pulseとは、カスタマーサクセスのリーディングカンパニーであるGainsight(ゲインサイト)社が主催する、世界最大規模といわれるカスタマーサクセスのカンファレンスです。
コロナ禍において、Pulse 2021は「Pulse Everywhere」と銘打ち6月9日〜11日の3日間、ストリーミング形式で実施されました。今回は、カスタマーサクセスがまだまだ普及されていない日本企業にとって参考になるセッションを主にピックアップし、内容をレポートします。
|イベントレポート
Pulse 2021で行われたセッションのなかから、6つのセッションの概要をご紹介していきます。
■Pulse Everywhere Opening KeynoteーPulse基調講演
Gainsight CEOニック・メタ(Nick Mehta)氏がPulse Everywhereシーズン2の基調講演に登壇し、カスタマーサクセスの過去1年間の進化と、これからのCSの将来に対するビジョンを語りました。
セッションの要約
この1年間は新型コロナのパンデミックの影響で、世界的にリモート生活を送る人が増加し、Netflixのようなオンデマンド動画配信サービスが躍進しました。このようなサービスとサブスクリプション系SaaS企業には、以下の8つの共通点があるとメタ氏は述べています。
①これまでの市場になかった新しい顧客体験を提供している
②利用者ごとにサービスをカスタマイズできる
③顧客はいつでも自由に解約する権利がある
④大手企業もサブスクリプションに移行を進めている(例:Adobeクリエイティブクラウド)
⑤ツールの開発は複雑で難解だが、顧客には使いやすいUXを提供している
⑥サービスのKPIが単純である(例:顧客数)
⑦継続性がある
⑧事業全体でNRRに集中して取り組んでいる
メタ氏によると、Gainsight社が独自に調査した結果、事業評価価格ともっとも相関があるKPIはNRRでした。そのためサブスクリプション系SaaSであれば、North Star Metric*となるのはNRRであるとし、その理由として以下の3点を挙げました。
1. NRRはアップセル・クロスセルも含むため、事業の評価だけではなく成長率の指標とするのにGRRより適している
2. カスタマーサクセスのROIはNRRで計測できる
3. カスタマーサクセスの目標を達成するとNRRは100以上に上がり、CSを拡大するべきと判断できる
*North Star MetricのNorth Starは北極星を指し、North Star Metricとは、ビジネスを正しい方向に成長させるために、関連するすべての部署やすべてのメンバーが参照すべき唯一の指標を意味します。
「Netflixも営業・マーケティング・カスタマーサクセス・開発すべてを含む企業全体でNRR向上に取り組んでおり、Gainsightにおいても同様の戦略が重要になってきている」とメタ氏は述べ、「NRRを向上させるためもっとも重要な戦略は、マーケティングから営業、カスタマーサクセスまでの顧客対応を統一し、顧客にバリューを提供することだ」と示しました。
■Fast and Furious SaaS Drift: Is Sales or CS in the Driver’s Seat? (Gainsight on Gainsight)ーワイルドスピードSaaS型ドリフト:営業とCSのどちらが運転席に?
このセッションでは、Gainsightのディレクターであるマイク・メデイ(Mike Maday)氏とSVPのケリー・デハート(Kelly Dehart)氏が登壇し、カスタマーサクセスと営業チームとの連携について語りました。業務目的が異なる両チームがベストプラクティスを共有し、事業全体の売上を向上させるためにどのように協力するといいのか、組織の設計の仕方について話しました。
セッションの要約
デハート氏は、先のメタ氏の話を受け、カスタマーサクセスにおいてはNorth Star MetricであるNRRの向上に向けて取り組むべきと述べたうえで、以下の施策を紹介しました。
①成功に向けた組織作りを行う
・カスタマージャーニーを適切に管理することによって顧客を継続させる
・セールスプロセス(マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセス)は分業する
・RACIチャートを導入する
・インセンティブを導入する
②営業で獲得した価値ある顧客をバトンタッチでカスタマーサクセスへ流す
・価値ある顧客のハイタッチ対応
・契約更新の適切な管理
・アップセル・クロスセルの対象となる顧客の見極め
続けてメデイ氏が、顧客に継続的にバリューを提供するために行った6つの施策と、Gainsight利用者の成功事例を以下のように紹介しました。
実施した施策 | 成功事例 |
クライアント情報やサービス情報などの一元管理 | 顧客との会議に向けた準備時間を60%削減 |
ヘルススコアチェックによるリスク管理とプレイブックの作成 | GRRの増加(86%→93%) |
NPS調査のループ化 | 企業全体のNPSを38から55へ向上 |
顧客の過半数に自動オンボーディングを実施し自動契約更新システムを提供 | カスタマーサクセスの対応率100%達成 |
スケールできる自動アダプションサイクルを策定 | SaaS企業においてMAUが17%増加 |
データドリブンな運用による分析と改善・拡大戦略と企画 | NRRが98%から107%へ増加 |
さらにメデイ氏は、セールスプロセスの分業について、ARRの高低とアップセルの可能性の高低を組み合わせることで顧客を4つのセグメントに分けたうえで、以下のように対応することを提案しました。

■The Power of CS from an Investor POVー投資家POVからCSのパワー
Vista Consultingのディレクターであるネロ・フランコ(Nello Franco)氏がモデレーターとして参加し、Apptioのケビン・ミークス(Kevin Meeks)氏、LogicMonitorのクリスティーナ・コスモスキ(Christina Kosmowski)氏がパネルディスカッションを行いました。テーマはカスタマーサクセス戦略を使った社内ROIと、投資家にとってのROIの確保です。
セッションの要約
①NRR以外で重要なKPIについて
投資家にとっては、やはりNRRが重要ですが、事業が成長しているかを確認できるGRRも重要です。ほかにも価値実現までの時間を表すTtVを指標として管理すれば、顧客の成長を早めることが可能になります。また顧客をセグメント化して「成功するカスタマー」を定義しやすくなる点において、アダプションレートも重要な指標です。
②投資ROIを最大化するには
リスクを知ったうえで、成長ポイントもあわせて把握することが大切です。顧客をセグメント化することで不安定となるプロセスを把握し、安定させるための戦略にリソースを投下すると効率がよくなります。
またKPIやKGIは、営業やマーケティング部署とあわせて簡単に理解できる指標にしたほうが、比較しやすく事業の成長可能性がわかりやすくなります。
③リソースは人材とテックタッチのどちらを強化するのがいいか
リソースの強化は人材もテックタッチもどちらも大切です。カスタムな要望が多く知識が高い開発系の顧客はセルフサポートできるので、テックタッチを強化すると効果的です。
対してメディア系の顧客は技術的な知識が乏しいケースが多いので、ハイタッチが必要になります。とくに顧客体験は対応する人材の質によって大きく異なるので、スムーズでポジティブな体験をしてもらうには人材の質は大切です。
■From On-Prem to the Cloud. How Customer Success has Been Adapted and Adoptedーオンプレミスからクラウドへ。カスタマーサクセスはどのように採用され、適応してきたのか
企業がクラウドモデルに移行するにつれ、受動的なサポートに重点を置いたやり取りから、顧客の更新と成長を保証する、より能動的なエンゲージメントモデルへの移行が進んでいます。
このパネルでは、最近オンプレミスからクラウドへの移行を行った3つの企業が、カスタマーサクセスの重要性と、移行を可能な限りスムーズにするために知っておくべきことを話しました。
セッションの要約
①SaaSをクラウドサービスに切り替える際の課題
現在の市場規模や今後の成長見込み、また自社の強み弱みを洗い出したうえで、必要と判断されたらクラウドサービスに切り替えるといいでしょう。またクラウド化を行う前の顧客の成功を優先的に考え、切り替えたあともカスタマーサクセスによって信頼関係を作っていくことが大切です。
②サブスクリプション型SaaSへシフトするハードル
改善プロセスに終わりはなく、企業としても学び続けなければなりません。あくまでも顧客を成功させることを目的とし、データやインサイトを分析するなど変化し続けることが大切です。事業の中心に「顧客の成功」を据えれば、人材はやりがいを持ち、また顧客からの信頼も得られます。
■Hypergrowth Through Customer Success−カスタマーサクセスを通して急成長を遂げる
カスタマーサクセスは、単に目的を達成するための手段ではありません。正しく実行されれば、大きな成長へと結びつきます。このセッションでは、Zendesk、Avalara、UiPathの3社からカスタマーサクセス専門家が登壇し、顧客の成果を提供することで収益に大きな影響を与えた方法を説明しました。
セッションの要約
①顧客のセグメント化の方法は?
3社とも、契約金額や見込み金額で顧客をセグメント化し、アプローチ方法を分けていることがわかりました。基本的には高い見込み金額であればハイタッチで対応し、金額が低くなるに従いロータッチ、テックタッチへと変えていきます。
さらにZendesk社においては、契約金額が高いハイタッチ顧客は、途中からアップセルやクロスセルが得意な担当者に変える、テックタッチの顧客であってもより高い契約金額見込みがつけばハイタッチの担当を付けるなど、柔軟に対応しています。
②カスタマーサクセスを使って高速グロースするには?
3社の話からは、適切なセグメント化に加え、利用データ分析、ベンチマークと担当評価により高速グロースが得られることがわかりました。UiPath社では、競合他社のカスタマージャーニーを共有することで、顧客のやる気を引き出すことにも成功しています。
一方課題としては、データ集積や単純作業を自動化する必要があること、高速グロースさせるのにあわせて自社の人材を育成する管理の必要があることが挙げられています。またZendesk社は、パンデミックの影響による利用環境の変化にあわせ、有効な機能や使い方を増やす必要に迫られていることを課題として挙げました。
■You’re on Mute: Making CS Work In a Remote-first Modelーあなたはミュートにしている:リモート優先の環境でのCS運用
お客様と直接対面でやり取りすることが実際にできない世界となったなかで、カスタマーサクセスはどのように変わっていくのでしょうか?
パネリストのGitlabのカスタマーサクセスVPデイヴィット・サカモト氏とCSMのシェロッド・パッチング氏は、このリモートファースト環境で顧客の成功を実現させるために、何がもっとも効果的で、また何が効果的でないかなど、自社で展開したさまざまな戦略について話し合いました。なお、Gitlab社では、現在1,300人の従業員がフルリモートで従事し、2,200人がリモートに協力しています。
セッションの要約
Gitlab社のこれまでの経験から、リモートワークをすることによって以下のメリットが得られることがわかりました。
1)情報共有を重視しているので、透明性と信頼性が高い
Gitlab社では、「事業のバリューは顧客体験で決まる」との認識から、機能開発や問題解決の情報はすべて顧客に公開しています。そのため顧客と深い信頼関係を築けるようになりました。
リモートに際しては、ミーティングの最初にアイスブレイクを行う、できるだけカメラをONにしてお互い顔を見ながら話すなどすることで、顧客のエンゲージメントを得る工夫をしています。
2) ドキュメント化を徹底することで、情報不足・ミスコミュニケーションが起こらない
すべてのやり取りや業務をドキュメント化することで、情報不足やミスコミュニケーションが発生しなくなりました。会議は事前にアジェンダを作りLive Document Meetingを行うことで、会議中にメモを取ったり、参加できない人が事前にメモを残したりが可能になります。これにより、ミーティング内容の参照とフォローアップがしやすくなり、顧客ごとに情報をまとめられるようになりました。
3) Asyncワーク(非同期業務)にすれば、自社も顧客も生産性が上がる
Asyncワークにすることで、時間帯や言語の違いによって発生する問題を解消できます。互いに合わせる必要がないので、効率がよくなり生産性も上がります。最初はSync(同期業務)からはじめ、顧客の要望にあわせてAsyncを導入するといいでしょう。Asyncで行った業務に関しては、すべてドキュメント化して共有することが成功のポイントです。
|まとめ
Pulse 2021から、これからカスタマーサクセスを導入する企業、CSをうまく運用したい企業に役立つセッションをピックアップして概要をご紹介しました。
「オンプロミスからクラウドへ」のセッションでも触れられていましたが、「顧客の成功」、つまりカスタマーサクセスを事業の中心に据えることで、人材はやりがいを持つようになり、顧客と深い信頼関係を築けるようになります。
カスタマーサクセスは今後ますます注目を集め、ビジネス拡大の核とする企業が増えてくることでしょう。