アップセルとは?カスタマーサクセスで再注目される概念や実現のポイント

カスタマーサクセスを実施するにあたり、あなたは次のことに疑問を感じてはいませんか?
・アップセルやクロスセル、ダウンセルについて詳しく知りたい
・アップセルやクロスセルを促したばかりに、顧客が離れていかないか不安
カスタマーサクセスとは、顧客の成功体験を通じて長く使ってもらったり、より収益を上げたりすることを目指すものです。 とはいえ、無理な「営業活動」はときに顧客を失うことにもなります。
今回は、
・「アップセル」「クロスセル」「ダウンセル」とは何か
・「ダウンセル」は本当によくないことなのか
・効果的に「アップセル」「クロスセル」を実現している事例
についてご説明します。
「カスタマーサクセスを実現するための具体論がわからないまま実施し、無駄な手間暇をかけてしまった」という失敗を避けるためにも、最後まで読んでください。
目次
|アップセル・クロスセル・ダウンセルとは
では、まず「アップセル」「クロスセル」「ダウンセル」について詳しくみていきましょう。
■アップセル
アップセルとは、基本的なサービス/商品に加え、「オプションをつける」「より高いラインのサービス/商品の購入をする」ことを指します。
顧客がアップセルに応じるには、「ベーシックなサービス/商品に満足していること」が大前提です。 文字通り顧客が「成功体験を積んでいる(カスタマーサクセス)」状態でなければ、アップセルは実現しません。
■クロスセル
クロスセルとは、現在利用中のサービス/商品と組み合わせて使うことでより効果的に使えるものをあわせて購入してもらうことです。
アップセルと異なる点は、「違うサービス/商品との組み合わせである」という点です。 クロスセルに応じてもらえるとき、顧客は「これとこれの組み合わせで、現在利用中のサービス/商品がより便利になる」と思っていると考えられるでしょう。
この場合も、顧客はサービス/商品の利用に満足をしている、より大きな成功体験をしたいと望んでいる状態と推測できます。
■ダウンセル
ダウンセルとは、「有料サービスから無料サービスへダウングレードする」、「これまで利用していたプランより安いプランに変更する」もしくは「アカウント数を減らす」ことです。
ダウンセルは月々の収益が減る分、歓迎できる状況ではないでしょう。 しかし、完全に解約されてしまうのと違って必ずしも悪いわけではありません。次に詳しくお話します。
|ダウンセルは必ずしも悪いわけではない
ダウンセルは、1顧客あたりの平均収益が減ってしまう分、歓迎できる状況ではありませんね。
ただ、「解約」ではない、という点に着目してください。 サービスそのものが完全に見放されたわけではないのです。 機能の一部しか使っていない、費用に対し現在は効果が限定的、不要になったアカウントを削除した、というだけで、「満足していない」という状況にまでは陥っていないのでしょう。
継続利用してくれてさえいれば、後日、アップセルのためのアプローチもできるかもしれません。 また、場合によってはカスタマーサクセス担当者自らがダウンセルを提案し、顧客の費用対効果を向上させる取り組みが功を成すこともあるでしょう。
|カスタマーサクセスの浸透で再注目されるようになったアップセル
「アップセル・クロスセル」という言葉は、以前から営業やマーケティング界隈でもよく使用されていましたが、「LTV(顧客生涯価値=顧客が契約から解約に至る間どれだけの金額を使ってくれるかの指標)」を重視するカスタマーサクセスの認知が拡大したことから、再び注目されはじめました。
参考:
LTVとは?算出方法から向上のさせ方まで、わかりやすく解説
LTVが重視される理由、算出方法、向上に向けた対策まで徹底解説。国内の市場が縮小し、SaaSをはじめとするサブスクリプションモデルが普及するなか、非常に重要な概念です。本記事を読むことで、LTVの初歩的な知識から活用に向けた第一歩まで理解できます。
|SaaSにおける参考例
ここからは、SaaSにおいてアップセル・クロスセル・ダウンセルに成功している参考例をご紹介します。
■【アップセル】Zoom
https://zoom.us/pricing
オンライン会議システムとして近年ユーザーを増やしているZoomでは、2020年8月現在4つのプランがあります。 プランが上がるごとに「できること」が増えます。 最初は無料からはじめて使い勝手を理解したうえで、「企業規模」「使いたい機能」に合わせて自然にプランを上げていけるような金額設定をしているのが特徴といえるでしょう。
■【クロスセル】Adobe
https://www.adobe.com/jp/products/catalog.html
PhotoshopやIllustratorで有名なAdobeシリーズは、クロスセルのお手本ともいえるビジネスモデルです。基本的に利用するものを購入し、追加で必要なSaaSサービスを好きに組み合わせできますので、「自分の使い方にあった仕組みづくりが可能」なのです。
専門性の高いSaaSの場合、必要な機能は人それぞれでしょう。 その点、Adobeは契約者の手で「好きにカスタマイズできる」ことに重きを置いているように見えます。
■【ダウンセル】Gsuite
https://gsuite.google.com/intl/ja/pricing.html#choose-an-edition
Gsuiteは、Googleの提供するクラウドサービスの組み合わせです。 「Gmail」や「Googleカレンダー」などは単体なら無料のものですが、組み合わせて「Gsuite」として使うことで、ビジネスでもプライベートでも効率よい作業ができます。
必要がなくなれば無料プランにし、再度管理しなければならない情報が多くなったとき、同じIDでアップセルできます。
気軽にプランを変えられる仕組みがあることで、「基本的にそのサービスは使うものの、必要に応じてプラン変更できる」という利便性にユーザーの満足につながっていることでしょう。
|アップセル・クロスセル実現のポイント
では、アップセルやクロスセルはどのように実現すればよいのでしょうか。 ここからは、アップセルやクロスセルをどう進めるのかという具体的な方法についてご紹介します。
■ユーザーごとに適した提案
多くの方が、必要のない営業はやめてほしいが興味のある提案があれば聞きたいと思っているのではないでしょうか。
昔と違って、今はパーソナライズされた提案が一般的で、そうでない提案は嫌われる傾向にあります。毎日ログインし、多くの機能を平均的に使っているユーザーにはアップセルを提案してもよいでしょう。 また、「特定の機能をよく利用するユーザー」であれば、そのユーザーの役に立ちそうなサービスを提案する方法もあるでしょう。
いずれにせよ、無理な営業活動は嫌がられてしまいますので、ユーザーに適した提案を心掛ける必要があります。
■上位プランの機能の一部を常時表示
もしも上位プランを積極的に提案したいのであれば、「見たいけれど見ることができない」という状況を作る方法もひとつです。
基本プランでは使えず、上位プランでのみ利用可能な部分はクリックしても開けないようにしたり、モザイクをかけて興味を引きつつ「アップグレードするにはこちら」というボタンを設置したり、というやり方です。
見たいのに見えない、使いたいのに使えない、となると、ユーザーは興味を持ってくれるでしょう。 また、基本プランにある程度満足していても、「プランをアップするともっと便利になるだろう」と気づいてくれるかもしれません。 アップセル・クロスセルには、あえて「ちょっとだけ見せる」方法も有効です。
■上位プランでのトライアル
正式契約前のトライアル期間中、あえて最上位もしくは一番人気のプランで試してもらうのも効果があります。 試用期間中に「このサービスではここまでできるのか」という成功体験を積んでもらい、満足できたところで契約をするのがSaaSではよくある方法です。
その期間中、無料プランや比較的安価なプランでのテストではなく、より多くのことができるプランで試してもらうのは、契約前のトライアルには有効です。
「安いプランから契約してみようか」というユーザーもいるかもしれません。 ですが、トライアル期間中に得た満足感からは少し外れた経験をすることでしょう。 そうすれば、「トライアルで得られた効果を再度経験したい」と、アップセル・クロスセルに応じてくれるかもしれません。
無料試用期間で提供するプランは、「一番人気」もしくは「最上位」がよいでしょう。
■プランごとに適したペルソナを明示する
アップセル・クロスセルを積極的に進めたいのであれば、プラン説明(料金含む)に、「どのような使い方ができるか」「どのような企業/ユーザーに適しているのか」を示すとよいでしょう。というのも、単に機能だけ羅列しても、契約前の見込み客にとっては、「どれがいいのか」を判断しづらいからです。
既に特定のプランを一定期間利用しているユーザーなら、「この機能が欲しい」と明確に理解できるはずですが、契約前の場合、なかなか「どれがベストか」は判断できません。 特にBtoBのとき、費用の高いプランは「何がどういいのか」を示しづらく、社内稟議が通りにくい可能性もあるでしょう。
また、最初からその企業の課題に適していないプランを導入してしまうと、高価なのに使いづらいと判断され、解約に至る可能性が高まってしまいます。
まずは、「このプランは〇〇に最適です」「ユーザー数〇〇以上を見込んでいる企業におすすめです」「取引先が〇社以上のときに最も適しています」といったモデルケース(ペルソナ)を用意しましょう。 自社ならこのプランが適しているかも、という判断がしやすくなりますし、それと合わせて後に続く機能一覧を比較し、価格と価値の違いについて理解しやすく提示することができます。
|まとめ
カスタマーサクセスは、顧客に成功体験を積んでもらうことで収益を上げよう、という概念と施策です。 カスタマーサクセスにおける成功体験は、契約前から経験すべきことで、「この会社なら、このサービスなら安心できそう」という意識付けも大事です。
そういった観点から見ると、アップセル・クロスセル・ダウンセルをしやすい仕組みづくりや、試用期間に提供するプランの厳選、提案方法に至るまで事前にしっかりと計画しておく必要があるでしょう。 あくまでもユーザー目線で営業/サポートプロセスを整えるのが、カスタマーサクセスの要です。